給油物語

 終始かっこよく決めるってなかなか難しい。
 世の中には、まぁかっこよく決めるのが普通っていう人もいるだろうけど。

 うちのダーリンはいつもかえるコールをしてくる。ある晩も例外にもれず、電話のベルがなった。
 「今日、急きょ飲み会になっちゃったから、迎えにきてくれる?」
 しょうがない、飲み会ならば出動せねば。約束の時間までに子どもを寝かしつけてと…と色々用足しをして、駅まで迎えに行った。

 もう春だというのに、真冬並の冷え込み。車の中で縮こまって電車から下りてくるのを待っていた。
 「わりーね〜」と乗り込んできた。あっ!ガソリンがない!!
 まっすぐ帰れば5分なのだが、遠回りして帰ることにした。スタンドに着くまで暖房ガンガンに。

 でもなんだか、寒すぎる。もしかして私、風邪ひいた?ほんとに寒い。寒い寒い言っていると、ダンナが代わりに給油してくれると。なんてやさしい。しかも得意気に「しょうがない。今日は僕のカードで入れてあげよう!」と言って、車を降りた。
 セルフスタンドでいつも給油しているのだ。まず、カードを入れて、給油口のキャップをはずし、給油スタート!!
 私は車の中で給油している姿を、ミラー越しに見ていた。スーツ姿で片手に給油ノズル、片手はズボンのポケットに。背が高いだけあって、なかなか素敵に給油しているわ…なんて思っていたら…また、やっちゃった。

 給油が終わり、キャップを締めて。普通ここで次にカードを取るのだが、彼は「さっ!行こう!」と片足を助手席に掛け、帰ろうと。
 「ちょっちょっと〜、カード!!」
 私が叫ぶと、
 「あっ、まじっ、忘れた」
 慌てた彼は助手席側のドアを思いっきり開けた。ゴツッ!
 「ちょっとぉ〜、ドアぶつけないでよう〜」私がまたまた叫ぶと、
 「あ〜あ〜」と動揺しつつぶつけた箇所を覗き込んだ…
 途端、手に持ったカードを落として、またまた、「あ〜あ〜、あらら…」とかがみ込んだ。まったく、ドジだね。呆れ果ててもうなにも言えないわ。
 そこへ、彼の大事な相方のリュック君が、彼を助けようとしたのか、お尻を上げ、前かがみになっている彼の元へゆっくりゆっくりと、向かっていった。そして、ドサッと車のシートから落ちて行った。彼が無事にカードを拾い上げて、顔を上げた瞬間に落ちた。リュックは落ちるような状態ではなかったのに、落ちた。彼を助けたかったというより、ぼくも落ちてみたかったぽい感じだった。

 アハハハハー「カバンまで、落ちなくったてぇいいのに〜ハハハー!!」呆れるどころか、腹の肉がよじれるほど笑い転げてしまった。
 絶妙なタイミングと間は天才的。神業としかいいようがない。
 絶対、彼には笑いの神がついているようにしか思えない日だった。