似たもの同志

 その音は後ろからやってきた。私はハンドルを左にきって、その音が通り過ぎるのを待った。澄みきった夜空に、赤々と赤色灯が叫んでいる様だった。いつも仕事で聞き慣れている音なのに、私の目からは止め処もなく涙が溢れていた。

 午前5時・・・母が叫んでいる。日頃滅多なことでは驚かない母が叫んでいる。「お父さんが、倒れたぁー!!」 なりふりかまわず、私達は駆け寄った。目の前に飛び込んできたのは、虫の息の父。脈は・・ふれない!「お父さん、お父さん。」呼んでも呼んでも・・・。

 救急車がくる間、私はボーゼンとしていた。ナースなのに・・・。救急車にのって、病院へむかった。チアノーゼ、血圧70代、意識なし、口から泡もふいていた。病院に着いて、心肺蘇生。心臓マッサージ・・・でも心臓は止まろう止まろうといている。動いてぇー!!病院到着から40分、父は帰らぬ人となった。あっという間の出来事、涙はでない。心がついてきてない・・目の前で父は亡くなったのに・・。悲しいはずなのに。

 慌しく通夜、葬式の準備に追われ、まるで父が死んでいるなんて微塵も感じる余裕がない。こんなものなのだろうかと思いつつ、あっという間に時間はすぎていった。仕事も1週間休んだが、悲しんでる間もなく仕事に復帰。私は本当に悲しいんだろうか?と疑問にさえ思ってしまっていた。

 お別れの心の準備として、初七日、四十九日、一周忌・・というのがある。だんだんと思い出に、心の支えになっていく。この涙が溢れたとき、私の心には、父の最期が甦って、あの時泣けなかったぶんが溢れてきたのかも。私にはまだお別れの準備が出来ていないのかもしれない。よく考えれば、まだ父と一緒に過ごしている感じが抜けない。何故か。

 私の最愛のダンナ様が事ある毎に、亡くなった父に似ている。趣味に没頭するところ、趣味のためならなんでも作ってしまう。ご飯は作れないのに。そんな似ている二人は、一緒に過ごした時間は少ない。でも亡くなる一日前、父は私にダンナのことが好きだと・・・。それが最後の言葉になった。母も悲しみに暮れることなく、毎日を過ごすことが出来ている。

 すべて、ダンナがいてくれているお陰。ありがとう。きっと父も安心して天国で見守ってくれているでしょう。