| 第3回ランノート。 今回は、今まで当たり前のようにできていたブラインドタッチが、ある日突然できなくなってしまった不思議な体験についてお話しします。 |

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■突然できなくなったブラインドタッチ 最近、キーボードのブラインドタッチがどうもうまくいかなくなっていた。私はもともと、手元を見ることもなく仕事をし、ホームページづくりもこなしてきたはずだ。それが、なんだかしっくりこない。 デスクトップ環境を改善し、自宅でも職場でも3つのモニターを使い、メカニカルキーボード(ロジクールG913)を中古で2台購入して「さあ、これからバリバリやるぞ!」という時だった。 むしろ、手がまごつくというか、「自分はいったいどうやってブラインドタッチしていたんだっけ……?」と、お悩みモードに突入してしまった。 ■三女とのランチでの会話 そんなことを考えていた頃、三女とランチをする機会があった。 駒沢大学前駅で待ち合わせ、レストランへ向かう途中、ひさしぶりに会う三女に手探りで自分の話題をふってみた。 私は「最近AIにはまっていてね~」とか、「キーボードをいろいろ買って試しているんだ」とか、「赤軸とか青軸とかキーにもいろいろ種類があるんだよ」といった、当たり障りのない話をはじめた。 すると娘がこう言った。 「パパって、昔コトコトと、キーボード打っていたよね。」 その言葉を聞いた時、なぜ娘は「コトコト」と言ったのだろうと思った。 最近、娘の前でキーボードをたたくことはなかったし、静音キーボードばかり使っていたので、音を立てて入力する私の姿は見せていないはずだ。 時間をさかのぼって考えてみる。娘が5歳くらいの時、私はホームページづくりに夢中だった。当時は模型の大きな展示会のレポートを夜遅くまで作っていて、小さな娘が私の膝の上に座ってその作業を眺めることもあった。 かなり幼かったはずなのに、その光景が娘の記憶にしっかり残っていたようだ。 そういえば、私はすでにその頃にはブラインドタッチができていた。それなのに、なぜ今になってうまく打てなくなったのだろう。娘の何気ない一言によって、漠然としていた疑問が急に鮮明になった。 娘とのランチを終え、私はヨドバシカメラ秋葉原へと向かった。いろいろなキーボードを見て試打し、「冬のボーナスが出たら新しいキーボードでも買おうかな」と考えていたからだ。今はさまざまなキーボードを入れ替えながら、日々の入力作業を楽しみたいという気持ちだった。 ヨドバシカメラに向かいながら、「昔はどんなキーボードを使っていたっけ?」と遠い記憶を掘り起こしてみた。その頃の環境を思い出せば、今ブラインドタッチができなくなったヒントがあるかもしれない。 当時使っていたパソコンは何だっただろう。思い返してみると、おそらく富士通かNECのデスクトップパソコンだったと思う。JIS配列であることは間違いない。テンキーも付いていたかもしれない。今となっては細かい部分までは思い出せない。 ただ一つ確かなことがある。当時のキーボードはメカニカルキーボードではないが、コトコトとした打鍵感の昔ながらのメンブレンキーボードだったはずだ。キーはノートパソコンと違って、しっかりと沈み込むタイプだった。 「もしかすると、キーボードを変えれば昔の感覚が戻るのではないか」――そう思い始めていた。 |

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■ヨドバシカメラで気づいたこと ヨドバシカメラ秋葉原店には、さまざまなキーボードが並んでいた。ここはキーボード販売に強いお店だ。特に試打がたくさんできる。私は一台一台試しながら打鍵感を確認した。ちょっと打っては離れ、横にずれてはまた試す、という具合に。 そんな時だった。たまたまキーボードを試している女性の後ろ姿が目に入った。かなり自然なブラインドタッチだった。私は何気なく彼女の指の動きを見ていた。すると、その人はEnterキーを「薬指」で押していた。 そこで私はハッとした。「あれ?小指でエンターじゃないんだ」と。 私は最近YouTubeなどでブラインドタッチの方法を再確認していて、「Enterは右小指」と教わったので、それができるように意識していた。しかし目の前の女性は軽快に薬指でEnterを押していた。そこに迷いはなく、体に染み付いた自然な動きに見えた。 その時、私は初めてこう思った。 「もしかすると、自分の昔からの打ち方も間違っていなかったのではないか。。。」 私はこれまでEnterをどの指で押していたっけ……? 帰宅後、自分の運指(どの指でどのキーを押すか)を分析してみた。 すると、意外な事実が分かった。頭をからっぽにして、意識を一切指に伝えないようにすると、私はどの指でキーをさわるのだろう――考えながら入力するのをやめてみた。 すると私は、 ・Enterは薬指 ・Backspaceも薬指 ・右側の記号類もほとんど薬指 ・左側のShiftキーは親指で押さえ、A, X, C, Vを人差し指で同時押し というスタイルで入力していたのである。 さらに気づいたことは、私は長年、右小指をほとんど使っていなかったということだ。小指は力が弱い。その代わりに薬指や中指を使う運用が、私の体の中で完璧に完成していたのだ。 そういえば、娘が幼少期だった2009年頃の自分はどうだったか。ここでさらに過去を振り返ってみた。ホームページ「MODEL RUNNER」を開設したのは2002年だった。 そして2009年頃の私は、おそらく人生で最も忙しい時期を過ごしていた。仕事も忙しく、趣味のモデラーズサミットも最高潮に盛り上がっていた。特に2009年11月頃は忘れられない。参加作品の記録を残そうと、毎晩のようにホームページを更新していた。写真を整理し、記事を書き、HTMLを修正し、深夜までキーボードを叩いていた。 娘の耳に残っていた「コトコト」という音は、おそらくその頃のものだろう。 考えてみれば、その時代の私はタイピングの型についてなど考えたこともなかった。指の動きも意識していなかった。Enterキーをどの指で押しているかなど、一度も気にしたことはない。 ただ、書きたいことがあって、それを文章にするためにキーボードを叩いていた。それで何の問題もなかった。 つまり、少なくとも17年前には、私はすでに自分なりのブラインドタッチを完全に身につけているのである。 そう考えると、「なぜ2026年になって突然打ちづらくなったのか」という疑問の答えが見えてきた。 ■上達しようとして下手になった理由 問題はそこだった。今年度に入って私は、「もっと正しいタイピング」「もっと速いタイピング」「もっと理想的な指の動き」を学ぼうとしてしまった。 YouTubeを見たり、生成AIに基本の指の動きを聞いたり、ネットの解説記事を読んだりした。 その結果、長年体に染み付いていた自分の型の上に、別の指の動きを無理やり上書きしようとした。そうして起きたのが、「意識と無意識の衝突」だった。 本来は考えなくてもブラインドタッチができたはずなのに、 ・Enterは小指で押すべき ・記号はこの指で打つべき ・左のShiftキーは小指でおさえるべき といった「基本に忠実になろうとした知識」が邪魔をした。 その結果、今まで自然にできていたブラインドタッチができなくなったのだ。無意識でできていたことを頭で意識的に操作しようとすると、かえってうまくいかなくなる。歩くときに「右足を出して、左足を出して」と考えないのと同じだし、無意識にピアノを弾ける人が急に「次は親指をドに置いて……」と悩み出すようなものだ。 ■環境の変化というもう一つの問題 また、ブラインドタッチの乱れには環境の要因もあった。ロジクールのG913は、キーがわずかコンマ何ミリというレベルで動く、上から正確に叩かないとキーがずれてしまう。さらに、パームレストがないと私の親指シフトの指の動きがうまくいかず、キーが遠く感じられてしまう。 右手の薬指運用も、キー配置が低いノートパソコンだからこそスムーズにできたものだったのかもしれない。 これまでのキーボード感覚と新しいキーボード感覚のギャップ。Ctrlキーの位置や配列の違い。さまざまな環境変化が重なり、私が無意識でできていたことを阻害していたのだ。 能力が落ちたわけではない。環境の変化によってリズムが狂っただけだった。 ■自分を取り戻すための軌道修正 それにしても、「なぜ私は左親指でShiftを押しているんだ?」と今さらになって疑問に思った。思い返せば1995年~1996年頃、社会人になり立ての頃に先輩から「ブラインドタッチを覚えろ」と言われて練習を始めた。 キャノンワードというワープロを買い、パソコンを買い、昼休みもタイピングゲームで練習した。しかし左右の小指の動きがあまり上手ではなく、ある本に載っていた「左親指でShiftを押してA, X, C, Vを連続で押す方法(どうやら『増田式』という技らしい)」を取り入れたんだった。 その記憶を頼りに、私は自分の運指を次のように再定義した。 ・左親指シフトは「増田式(と思われる方法)」で問題なし。 ・数字キーはテンキーがない場合はブラインドタッチはあきらめる。 ・エンターとバックスペースを右薬指で押すのは矯正しない。ホームポジションから離れる動きなので支障はない。 ・「-(長音記号)」やカギ括弧は薬指で押していたが、ここは基本どおり小指で練習する(ここだけは矯正変更)。 ・キーボードの高さは自作のパームレストで微調整。上からキーを打ち下ろす角度を保ち、左親指シフトや右薬指運用を支える。 ・パームレストの底面には薄型滑り止めネット(篠田ゴム製)を貼り、手首の動きをしっかり固定する。 これらの運用に戻したところ、打鍵感がよみがえり、入力作業の感覚が日を追うごとにもどってきた。 ■今回の振り返り おもしろいのは、入力を極限まで速くしようとした結果、無意識の指の動きと意識的な指の動きがぶつかって、かえって入力できなくなったことだ。今では一部オリジナルの操作もあるが、高速入力には何の問題もない。私はやっぱり、キーボードをカタカタとリズミカルに打つのが好きなのだ。 ・欲張りすぎない。 ・昔学んだキーボードの本を、実家に帰った時にまた確認してみたい。 ・意識と無意識がぶつかると、物事はうまくいかない。 ・娘は小さい時の父親の姿を、しっかり景色として覚えている。 ・娘とのランチは、なかなか楽しい。 (2026/10/24 RUN) |

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■後日談 キーボードのブラインドタッチの本、「おそらくこの本じゃないか」という候補を中古で2冊買ってみた。 ・『速く正確な増田式 キーボード操作法 驚異のブラインドタッチハンドブック[ワープロ・パソコン編]』増田忠(PHP研究所) ・『ワープロ10本指テクニック キーボードを3時間でマスターする法』増田忠(日本経済新聞社) この2冊には、いずれも左親指シフトのことは書いてなかった。また、右薬指でEnterを押す運用も載っていなかった。しかし、自分が昔読んだ本には、左親指シフトが確実に載っていたはずだ。 私のルーツを探る探求は、もう少しつづきそうである。 |