モデラーズサミット2 「フルレポート 百花繚乱!」

 No.81 WildRiver荒川直人さんの1/1700「木馬の休息/ベルファスト軍港」5位(105票)
 [WildRiver荒川直人さんコメント]
 アイテムはすべてスクラッチです。
 コンビナートで3か月。

 WildRiver荒川直人さんのベルファスト軍港ジオラマ。
 ここ数年、様々な場面で数々の作品を発表していますので、お名前や作品をご存知ない方は少ないでしょう。
 本作品も、なんと「ベルファスト軍港」をフルスクラッチ、全体をフルスクラッチですぞ!まず、これを作ろうと思うこと自体がすごい。
 このような巨大な軍港セットを作るというのは、金子辰也さんが、映画「男たちの大和」の巨大セットを「タミヤ1/700戦艦大和キット」を使って再現されたことを思い出します。
 当日、私が撮影に向かった際、荒川さんも見学者に対応されていて、本作品を前にしてお話することができなかったのですが、荒川さんの著書「『円形劇場』演出師 WildRiver荒川直人 ガンダム情景作品集」から特に私が気になったキーワードをご紹介します。

■妄想脳内設計
 「世の中からは、完全に艦船モデラーであることを忘れ去られようとしていたところ、某誌で空母の情景を作る機会があってモチベーションが一気に艦船モードとなったが、ちょうど「ガンダムTHE ORIGINE」を読んでベルファスト軍港のシーンに、ガツンとやられたことから起想したのが本作。「考え方を変えればホワイトベースも立派な艦船じゃないか」と、艦船模型モードで一気に妄想脳内設計を行い、シリーズの中でも一二を争うほど時間をかけて制作している。当初は各所にLEDによる電飾を盛り込む予定だったがあまりの手順の複雑さに断念したほどの作業量」

 「妄想脳内設計」という言葉に注目したい。私たちが模型を作る時は、まず自分の作れそうなものを作ろうとする。たとえそれが単品作品であろうと、ジオラマ作品であろうと、まず完成までの簡単な手順と、大まかなイメージを頭に描く。そして完成に向けて手を動かしていく。イメージどおりに完成できる場合もあれば、作っているうちに違う方向に向かってしまう場合もあるだろう。切符を買って自宅からモデサミ会場に行くのに、おおまかなイメージを描いて到着するようなものだ。

 では、常人と荒川さんの違いは何か?ここまでの完成形のイメージを作る前に描いていることである。イメージの密度が違う。そしてこれまでの作品づくりや人生経験から得た経験値、自らが持っている技術レベルから、完成までの手順を一気に思い描いているのだ。つまり、妄想脳内設計が完了した時にはこの作品はすでに完成していると言える。あとは、ひたすら設計どおりに手を動かす作業となるが、完成する前に「いい作品になりそうだ」というのがわかってスタートをしているので、いい作品が完成するように手を動かしていくということになる。

 イメージを形に!私も今回「AMBUSH(アンブッシュ)」という作品を作ったが、途中失敗をした(道に迷った)が、目的地が明確だったため、完成した(たどり着いた)。この「モデラーズサミット2 フルレポート 百花繚乱」も、もうすでに最後のページまで脳内設計ができているから、最後までたどり着くことができる。

 人間は、まずイメージしてから動く。イメージがあやふやだと、道に迷い、きちんと到着しない。体操選手が誰も見たことのない新技をオリンピックで披露できるのもイメージどおり。マラソン選手が世界記録を数秒縮めることができるのもイメージどおり。東京スカイツリーが完成するのも、東京ディズニーランドがあのように成長していくのも、すべてイメージを持っている人がいて、そのイメージに向かって多くの誘導されているだけ。

 だから、イメージできない人にはよい作品はつくれない。たまたまよい作品が作れるという偶然は、できない。フラフラと歩くだけでは、近所の公園にはたどり着くかもしれないが、偶然アメリカにたどり着くことは決してない。高みを目指したいのであれば、高みを目指さなければならない。結果として失敗するかもしれないが、高いイメージに向かって飛ぶ、なんども飛ぶ、飛んでるうちにいい飛び方や、そこにたどり着く方法に気づく。イメージに向かって突き進むエネルギーは、入賞とか誰かの賛辞が欲しいということだけではなく、「好き」であること。「情熱」があることに他ならない。自分が欲しいものを自分で作るというエネルギーだ。

■手順書
 「じつは、本作のはじめのタイトル案は<夜襲>であったが、夜景を作るなら電飾をすることになる。本作では電飾を水中や各オブジェクトの中に埋め込み制作する手順書まで作成したもののギブアップ・・・(写真はないが、台座を裏返して見ると、あとから電飾の工作が可能なようにたくさんの穴が開けられている)」
 これも写真キャプションのコメント。ここでは、荒川さんが、この作品の本当に最初に描いたイメージとこの作品が異なることがわかる。これは、様々な要素から本来の完成形を荒川さん自らが断念していることがわかる。そう、この作品に荒川さんが描いたイメージはもっと高いのだ。

 僕がアンブッシュを作ったのはイメージどおり、むしろイメージ以上だが、荒川さんはこれは本当の着地点ではない。後ほど紹介するが、1位のn兄さんも本当はあのデビルガンダムは未完成。2位のまつおーじさんの「僕には帰るところがあるんだ」も未完成。未完成が上位入賞している(お二人の作品もおって解説します)。
 これはどういうことかというと、わかりやすく言えば、みんなすごい高い到着点をイメージしていたのだが、断念している。目指しているところがはじめから違ったのです。

 荒川さんの場合、「手順書」を作成して完成を目指している。アイディアノートに自分のイメージを具体化するための設計図を描いて、頭のイメージをよりわかりやすく手順書にしている。簡単なジオラマなら手順書などいらないだろうが、模型づくりというのにこの「手順書」は案外重要で、このように複雑なジオラマでは手順書にしたがって作らないと、「ああ、あれやる前に接着しちゃった!」なんてことが起こる。僕のふにゃふにゃのラン・ノートなんて駄目駄目だ。よりきちんとした手順をイメージしなければ、高みは目指せない・・・

 もっというと、プロモデラーの本当のプロというのは、作品づくりの前に「制作記事」を書くことができる。単品作品の場合は、「ここを何ミリのばした」「間延びしているのでデカールを」なんていうのは、全体のバランスをみながら調整することだが、よりすぐれたジオラマモデラーであれば、あるからこそ、最初に「制作記事」をすべて執筆してしまうことができるのだ。

■コンビナートで3か月
 このコメントだけは、G-worldではなく、当日の言葉。2行の制作記事、簡単だ。その言葉に選んだことばに思いをはせてみた。
 コンビナートの制作に3か月!当然、ここも脳内では完成してからスタートしている。モビルスーツデッキ、各戦艦、すべてにわたって、脳内設計ができてから手を動かしている。
 コンビナート部分は小指ほどの大きさ。写真でみて「荒川さんは大きな指を作るの上手ですね」と突っ込みをいれた人がいるくらい(笑)
 この部分だけでも、かなりの手順と工程があるが、ここも完成する前に荒川さんの中で脳内設計が終わっている。(2枚目の写真参照)
 エッチングパーツ、プラ板、ビーズなど、誰もが手にいれられる材料でここまで作り上げている。脳内妄想設計の密度が違う!くやしいくらい自分とイメージレベルが違うという現実に気づかなければならない。
 3か月かかったとしても、結局、設計どおり。手順も含めてすべてイメージどおりなのだ。

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 私の「AMBUSH」は、モデラーズサミット2で、WildRiver荒川さんや荒木智さんのジオラマと並べても見劣りしないようなレベルの作品を、ということで製作を開始している。レポートでみんなの作品に一言コメントするのであれば、それ相応のモデラーでなければいけないし、レポーターでなければいけないと思っている。負けた以上、荒川さんの作品にコメントなどできないし・・・などとも思っていたが、結果的に長文になってしまった。
 俺もなんだかんだ言いながら、あのおじさんに感化されている一人なのだろう。